繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 ほかと違う感じがしたのは安いものだから、というなら、それに心惹かれた自分の目が節穴な気がして恥ずかしくなる。

「意外とお手頃な価格なんですね。即決では買えないけど」

 とは言え、安いと飛び付ける値段でもないからそう言うと、青年はおかしそうに目を細める。

「埋もれた才能っていうのかな。そいつは無名作家の作品なんだよ」
「有名な作家さんの作品じゃないんですね」

 だから、お手頃な価格なのだ。ほかのものと遜色のない美しさがあるのに、価値とはわからないものだ。

「そのガラスシェードは、1900年代の作品に間違いないんだよ。だけど、誰が制作したのかはわからない。その上、どこかでベースが付け替えられたみたいで、芸術的な価値は低い。でもさ、現代的な細工と相まって、すごく魅力的だろう?」

 確かに言われてみれば、繊細な葉の模様のついた金属製の台は、滑らかな曲線を描き、可愛らしいすずらん型のシェードを支えていて、その調和の取れた姿には、凛とした優美さがある。

「本当にすごく綺麗ですよね。明かりをつけたら、どんな感じになるんですか?」
「つけてみる?」
「いいんですか?」
「気に入ったなら、売ってあげるよ。今なら、半額」

 たいそうな大盤振る舞いだ。

「でも、売らないんじゃ?」
「これだけはいいんだ」

 青年はそう言って、ランプを手に取ると、作業台に運ぶ。
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