繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 奈江は言われるがままに、木製のスツールに腰かけた。そのまま、壁際に並ぶビンテージランプを一つずつ眺めていく。

 多くは、さまざまな形をしたテーブルランプだ。ガラスシェードには花や植物の模様が入っている美しいものばかり。おそらく、芸術品に疎くても知っている人の多い、アールヌーボー時代の作品だろう。

 その中で、棚の端に置かれたテーブルランプに目が止まる。何がどう、ほかと違うのか、それを問われてもうまくは答えられないが、どうにも心惹かれる佇まいをしたそれが、気になって仕方ない。

 奈江はそのランプの元へ歩み寄ると、目線を合わせるようにかがみ込む。模様のないガラスシェードは、柔らかみのあるすずらんの形をしている。華々しいわけでもなく、地味なわけでもない。哀愁漂う儚さの中に強さも感じられる不思議な作品で、どうにも目が離せなくなる。

「それ、気に入った?」

 しばらく眺めていると、作業の手をとめた青年が話しかけてくる。

「ほかのものと違う気がして……」
「へえ。わかるんだ?」

 感心する彼だけれど、茶化すようでもある。漠然とそう感じるだけで、ほかのものと何が違うのかわからない奈江にとっては、彼の真意が読めない。

「おいくらぐらいするものなんですか?」
「それは、3万」

 ビンテージランプは高価な印象があったが、思っていたよりもお値打ちだ。薄給の奈江でも手が届きそうと思えるような。
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