繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「御守り……」

 奈江は息を飲む。彼がそれを知っているということは、遥希も気になっていたのだ。

 遥希との思い出を共有する青年に出会えたのだと思ったら、なんだかうれしくなる。

「早坂さんは覚えてる?」
「はい、もちろん。散歩中に、失くした御守りを探してる人と出会って、遥希さんと一緒に探したんですけど、見つからなくて」

 前のめりになって奈江が言うと、青年もうなずく。

「そうそう、そういう話だった。俺も探そうか? って言ったら、そこまでする必要ないって言われてさ。それでも遥希はずっと探してるみたいだったな」
「ずっと探してくれてたんですね。大野川に落ちたんじゃないかって、ふたりで川に降りて探したんですけど、結局、見つからなかったんです」

 大野川は水深の浅い川だ。失くしたという場所から、ちょうど下に降りられる階段があって、散歩が終わるとふたたび戻って、日が沈むまで探したのは、懐かしい思い出だ。

「大野川のどの辺?」
「彼岸橋です」
「彼岸橋……か」

 青年はあごをさする。何か思い当たることでもあるのだろうか。

「御守り探してた人、どうしてるんでしょうか。夏休みが終わる頃に、もう諦めようって話にはなったんですけど、遥希さん、何か言ってましたか?」
「いや、聞いてないな」
「そうですか……」

 何か知ってるかもと思ったけれど、期待はずれだったようだ。
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