繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 おじさんはおもむろに身をかがめると、シェードとマメを交互に見つめる。

「賢そうな顔をしてるね。君たちの鼻なら見つけ出せるかな?」

 なんて、冗談まじりに笑う。動物に対して優しい笑顔を見せられる人は信用できる。何より、慎重な性格のマメも、おじさんを怖がったりしなかった。

 今思えば、あのおじさんが信用できる人かどうかなんてわかりっこないのに、奈江は力になれるならなりたいと思うお人好しだった。

「俺でよければ、力になります」

 遥希も、困ってる人を見過ごせない正義心の持ち主だった。

「じゃあ、話だけ聞いてくれるかい?」

 おじさんは迷ったようだが、結局、そう言った。どちらかというと、お節介な高校生に付き合ってくれた。そんな印象だった。

 奈江は申し訳ないような気持ちになったが、おじさんが身の上話を始めると、すぐになんとかしなきゃという思いにかられた。遥希もまた、親身に耳を傾けていたから、気持ちは同じだっただろう。

「三ヶ月ほど前にね、学校帰りの息子が、橋のたもとで交通事故に巻き込まれそうになったんだよ。さいわい、息子はすり傷程度で助かったんだが、ランドセルにつけていた御守りがなくなってしまってね」
「御守りって、交通安全の?」

 奈江が尋ねると、おじさんはうなずいた。
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