繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「妻が息子のために買った大切な御守りでね。私たちの結婚指輪が中に入れてあるから、どうしてもあきらめきれなくてね」
「どうして結婚指輪を?」

 今度は遥希が尋ねると、おじさんは困ったような顔をした。言い出しにくかったのだと思う。

「妻は息子が小学校に上がる前に亡くなったんだ。息子が好きな紺色の御守りを宮原神社で買って、ランドセルにつけたその日に倒れてね、そのまま……」
「え……」

 奈江が戸惑うと、大丈夫だよ、というように、遥希は優しい目をした。

「病気だったんだ。妻は覚悟していたんだろう。だから、御守りに指輪を入れた」
「息子さんを近くで守りたかったんですね」

 遥希は淡々とそう言う。どこか他人事で、空々しい言い方だった。

 奈江は兄ばかり可愛がる母親が苦手だった。子供のために、という親の行動を上手に受け止めたことがない。もしかしたら、遥希もそうなのかもしれないと思った。おじさんもそんな心の機微に気づいたようだが、優しさからか、触れずにうなずいた。

「そうだね。妻が息子を守ってくれたんだろう。だから、御守りはあきらめてもいいとは思うんだが……」
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