繊細な早坂さんは楽しむことを知らない



「吉沢らんぷの猪川です。近くまで来たので、寄らせてもらいました」

 玄関先に現れた康代に、秋也は気さくに話しかけると名刺を渡す。突然の来訪だったが、特段迷惑そうでもない様子を見れば、康代はすんなりと受けいれてくれているようだ。

「猪川秋也さんね。奈江ちゃんから聞きました。ずいぶんお若い修理屋さんだって。吉沢さんがいらっしゃらなくなって大変だったでしょう」

 康代は名刺の名前だけ確認して、彼をねぎらう。

「そうですね、突然だったので。まあ、修理の方は本職なので、ご安心ください。その後、ランプの調子はどうですか?」

 本来の来訪目的を隠し、取ってつけたように尋ねてはいるが、実際、修理したランプの調子は気になっていたのだろう。

「はい、調子はいいですよ。ランプがつかないと、夜が明けないみたいで落ち着かなくて」
「そういうものですか」
「そういうものですよ。今日はもう、お仕事は終わったの?」
「休憩中です。って言っても、営業時間はあってないようなものなので、店が閉まっていれば、お客さんから電話が入ります」

 そう言って、秋也はスマホをちらつかせる。彼の本業はエンジニアだったか。吉沢らんぷで仕事をしているようだが、毎日修理の依頼が入るわけではないのだろう。

「じゃあ、時間は大丈夫? 和菓子があるから、食べていかない?」
「本当ですか? 甘いもの好きなんですよ。おじゃまさせてもらいます」
「どうぞ」
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