繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「数年前にみね子さんのご主人も亡くなって、心配した娘さんの美乃さんが戻ってきたのよ。道尚さんはつらい場所だからって、ずいぶん、大野には帰ってないみたい。だから、みね子さんが月命日には彼岸橋でお祈りしてるのよ」
「そんなことがあったんだね……」

 息をつく奈江の横で、思案げにしていた秋也が切り出す。

「変な話を聞いたことはありませんか? 彼岸橋で落としたものがなくなるとか」

 突然、何を言い出すのだろう? と、奈江と康代が同時に彼を見やる。しかし、康代は何か心当たりがあるのか、ハッとする。

「そう言えば……あ、いいえ」
「何かあるんですか? 教えてください」

 しばらく、康代と秋也は目を合わせていた。見えない葛藤が伝わってくる。そうして折れたのは、康代だった。

「そうね、猪川さんになら……」

 康代は奈江にうなずいてみせる。可愛がっている姪の連れてきた人なら信用できると思ったのだろうか。

「本当にただのうわさなんだけど、彼岸橋に霊が出るなんていう良くないうわさが当時はあったの。彼岸橋で遊んでたらボールがなくなったとか、髪を留めていたリボンがほどけたりとか。見えない誰かがいたずらしてるんだって、子どもたちの間でちょっとした騒ぎになったみたい。だから、みね子さんは今でもお祈りを欠かさないんじゃないかしらね。天国に行けてないなら可哀想だって」
「霊……か」

 秋也がつぶやく。

「舞花ちゃんの?」
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