繊細な早坂さんは楽しむことを知らない



 秋也は人なつこくて可愛げがあり、一緒に過ごす人を飽きさせない。すっかり彼を気に入った康代が、夜ごはんも食べていって、と言うから、早めの夕食を食べて帰路に着いた。

 家族以外の誰かと一緒に食事をするなんていつぶりだろうと思うぐらい久しぶりの出来事で、ほんの少し気持ちがたかぶる中、奈江は秋也と並んで駅へ向かう。

「お仕事、大丈夫でしたか?」
「修理はたまにしかないからな。本業の方はこれから帰ってやるよ。早坂さんもこのまま帰る?」
「はい。ナス、たくさんもらったから、何か作らなきゃ」
「料理、よくするの?」
「得意じゃないんですけど。一人暮らしだからやらないといけないぐらいで」

 正直、料理は好きじゃない。どちらかというと、強制されなきゃやらない方だ。社内で、美味しそうなお弁当を持参する女の子を見ると、自分は女性としての魅力が欠けている、そんなふうに後ろめたく思うこともある。

「すみません……なんか」

 不得意なことなんて口にする必要なかった。秋也にどう思われたか気になって口ごもる。

「まあ、得意である必要はないよな」
「え……」
「俺は得意だけどな」

 にかっと笑う彼にはやはり、嫌味がない。なんだか救われたような気分になる。

 秋也は魅力的な人だ。自分の中に、彼に対する好意的な感情が浮かぶのを感じる。

 彼は老若男女問わずモテるだろう。恋人だっているかもしれない。こうやって付き合ってくれるのは優しい人だからだ。勘違いしちゃいけない。かつて、恋人のいる遥希が自分に優しくしてくれたように、秋也も親切をしているだけだ。
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