繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 彼岸橋に差し掛かると、秋也がみね子のしゃがみ込んでいた交差点へと目を向け、足を止める。

「どうして与野さんが紺色の御守りを持っていたか、わからなかったですね」

 奈江が言う。

「仕方ないさ。与野さんの御守りが探してたものかどうかもわからないしね」
「ですよね。与野さんに直接は聞けない気がするし」

 舞花ちゃんの話を聞いたら、癒されているかもしれない心の傷をふたたび深くしてしまうかもしれない。

「まだ探したい?」

 秋也がひょこっと顔をのぞき込んでくる。

 どうだろう。当時、御守りを探していたのは、困っているおじさんの役に立ちたいというただそれだけのもので、流れに身を任せていたのはある。遥希と同じ時間を過ごす口実だった気も。

 奈江はおそるおそる秋也と目を合わせる。にこっとしてくれる彼だって、御守りの件がなければ、こうして一緒にはいてくれないだろう。

 もう御守りは探さない。そう言ったら、秋也はこのまま帰ってしまう。それは嫌だ。もう少し一緒にいられないだろうか。

 どういうわけか、そんな欲が出て戸惑う。さっき、思ったばかりじゃないか。彼が一緒にいてくれるのは、ただの親切だって。

「猪川さんも探したいですか?」

 動揺を隠すように、早口に尋ねてしまう。

「俺は……、どうかなぁ。困ってる人がいるなら助けたいし、遥希のやり残したことがあるなら、やってやりたいとも思う」

 そうなのか。それで、今日は彼岸橋まで来ていたのか。彼の原動力はやはり、親切心なのだろう。
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