繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「私も、まだ探してみます。やっぱり、与野さんの御守りが気になるから」
「そうだな。そうするか」
「でも、与野さんには聞けないから……」
「御守りを探してたおじさんが誰なのかわかれば、当時の状況がもう少しわかるんだけどな」

 秋也が歩き出したとき、奈江は騒がしい音に気づいて耳を澄ます。名前を連呼する、拡張器から発せられる声が徐々に近づいてくる。

「選挙カー?」
「ああ、市長選が近いんだ」

 秋也もうぐいす嬢の声に気づいてそう言ったとき、交差点に選挙カーが現れた。

 選挙カーに取り付けられた看板を見て、奈江は「あっ!」と、声をあげる。

「どうした?」
「あの人ですっ」

 奈江は選挙カーを指差す。

「あの人が、御守りを探してたおじさんです」
「本当か?」
「間違いないです。あのおじさんです」
「あれは、現職の越智(おち)正行(まさゆき)市長だよ。……じゃあ、ここで事故に遭った息子って、賢太(けんた)か」
「賢太?」
「ああ、越智賢太。市長の息子だよ」
「お知り合いなんですか?」
「時々、らんぷやに来るよ」

 どうやら、らんぷやのお客さんのようだ。

「どうする?」
「どうするって?」
「賢太となら連絡取れるよ。会ってみる?」
「えっ!」

 急な話だ。困惑しているうちに、秋也はどんどん話を進めてしまう。

「御守りの件、こうなったら、本人に聞いてみるのが一番だよな。じゃあ、こうしよう。俺が賢太に連絡取るから、会える日が決まったら、早坂さんに電話いれるよ」
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