繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 友人も恋人も、その存在を継続させるのは、自分には無理だろう。一人がいい。心を平静に保ち、楽しいことがない代わりに、つらいこともない日常が自分にはお似合いだ。

 約束の時間より少し早く、吉沢らんぷを訪ねると、店内では、作業着姿の秋也と、爽やかな印象の青年が作業台を挟んで立ち話をしていた。

 奈江はすぐに、青年が越智賢太だとわかった。御守りを探していたおじさんによく似ていたからだ。

「早坂さん、いらっしゃい。こいつが、賢太。やっぱり、彼岸橋で御守りなくしたの、賢太だったよ。で、当時、御守りを探してた遥希と、もう一人の高校生が、彼女」

 秋也に紹介されて、お互いに頭を下げ合うと、賢太がにこやかな笑顔を見せる。10年前に小学3年生だった彼は今、大学生だろうか。上品なサマーニットがよく似合う、落ち着いた雰囲気の男の子だ。

「はじめまして、越智です。父から話は聞いてたんですけど、まさか、本当にお会いできるなんて思ってなかったです」
「あ、早坂です。私も、あの御守りを探してたのが市長さんだなんて知らなくて」
「あのときは市長じゃなかったんですよ。むしろ、遥希さんとあなたに出会って、市長になろうと思ったみたいです」

 物怖じしない、はっきりと話す聡明な子で、奈江は気後れしてしまうが、あまりにも優しい雰囲気のある子だから、思ったよりも話しやすくて警戒心はすぐにとける。

「遥希さんと私?」
「なくした御守りを、あんなに真面目に必死に探してくれる子が大野にいるんだって感動したらしいです。この子たちの暮らしやすい街づくりするんだって、一般企業勤めの父が立候補するって言ったときは驚いたって、今でも祖母が話すんですよ」
「へえ。すごい影響力だな、早坂さん」

 秋也がにやにやする。
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