繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「すごくはないです」

 御守り探しをあきらめなかったのは、遥希の方だ。奈江は彼に合わせていただけで。あわてて首を振るが、賢太も朗らかに笑む。

「そんなことないですよ。俺、ずっと謝らないとと思ってて」
「謝らないとって、何を?」

 尋ねると、彼は途端に申し訳なさそうに眉をさげる。

「御守り、見つかるはずがないんです。彼岸橋で落としたわけじゃないから」
「どういう……?」
「話したって誰も信じないと思ったし、言っちゃいけないと思って、ずっと黙ってました」
「彼岸橋でなくしたんじゃないのか?」

 秋也も驚いた様子で言う。賢太は複雑そうな表情でうなずき、ポケットに手を突っ込む。そうして取り出したのは、紺色の御守りだ。

「なくした後、父が宮原神社でもう一度、もらってきてくれた御守りです」
「当時、おじ……越智さんが見せてくれました」
「これがあるから、俺も父が御守りを探してるなんて知らなかった」
「じゃあ……、もしかして、指輪のことは?」
「今、秋也さんから聞いて、初めて知りました。当時は母の結婚指輪が入ってたなんて知らなかった。だから、なくした御守りのことは黙ってれば大丈夫だって思ってた」
「黙ってれば大丈夫?」

 賢太は髪をかきあげると、わずかにまぶたを伏せたが、すぐにまっすぐな目で奈江を見つめた。

「あの日に見た女の子のことは、これから先もずっと誰にも話すつもりはなかったんですけど、秋也さんからあなたがまだ御守りを探してるって聞いて、今日は話すつもりで来ました」
「女の子……」
「はい。あの女の子がいたから、俺は事故に遭わずにすんだんです。信じてもらえるかはわからないけど」
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