Runaway Love
 女性陣で賑わっているそこは、このショッピングモールでは、唯一の下着専門店だ。
 昔なら、こんな光景は考えられなかったけれど、今は、友人同士でブラを当てながら笑い合ったり、じっくりと店員と話しながら考えている、お一人様もいる。
 本当なら、通販とかで買いたいのだけれど、背に腹は代えられない。
 あたしは、緊張気味に中に入ると、中のラインナップを見て回る。
 知り合いには見つかりたくないので、できるだけ、奥に入って隠れるようにしていると、店員に声をかけられた。

「何かお探しですか?」

 同年代と思われる店員は、あたしに、にこやかに近づいて来た。
 思わず固まっていると、更に続ける。
「もしよろしければ、サイズ、お測りしましょうか?」
「え」
「ちゃんと測った方が、キレイに見えるものをおすすめできますよ」
 あたしは、一瞬、断ろうと思ったが、キレイ、という言葉に思い直す。
 ――どうせなら、ちゃんと、測ってもらおう。
 心を決めてうなづくと、慣れたように、試着室に案内される。
 カーテンは二重になっているので、不意打ちで入られる事も無い。
「失礼しますねー」
 そう言いながら、彼女はカーテンから顔を出す。
「そしたら、ブラの上から測りますから、上だけ脱いでくださいね。良ければ、お声がけください」
「ハ、ハイ……」
 あたしは、言われるままうなづき、着ていた服を脱ぐ。
 てっきり素っ裸になるものだと思っていたので、拍子抜けした。
 すぐに声をかけると、失礼します、と、入って来られ、すぐにメジャーを当てられる。
 グイ、と、引っ張られる感触に戸惑うが、されるままになる。
「あら……?すみません、ちょっと、ホックだけ緩めてもらえますか?」
「え、あ、ハイ」
 彼女は、緩んだブラを整え、再びメジャーを当て直す。
「あ、やっぱり」
「え?」
「お客様、たぶん、サイズ合ってないですよ」
「……え」
 その言葉に、ギクリ、と、してしまう。
 ――それって、太ったって事⁉
 あたしは、最近の食事を思い浮かべ、頭を悩ませる。
 けれど、心当たりがあまり無いので、不安だけがグルグルと回ってしまった。

「せっかくなんで、スリーサイズ、測りましょうか?」

「え、あ……ハ、ハイ……」

 そんなあたしの心境に気づくはずもなく、店員の彼女が提案してきた。
 あたしは、その笑顔に押されてうなづくと同時に、ウェスト、次に服の上からお尻にメジャーが当てられ、驚いてしまう。
 ――脱がなくて良いの??
 ギョッとしているあたしに、彼女は笑いながら言った。
「薄い生地の服ですし、大丈夫ですよ」
「そ、そうなんですか」
 その言葉に、曖昧にうなづき返す。
「じゃあ、サイズはこちらに控えておきますね。ブラとショーツ、お探しですか?」
 あたしは、手渡された紙をまじまじと見る。

 88、68、84。

 ブラのサイズは――

 ……あれ??

 目を丸くしているあたしに、彼女は微笑んだ。
「正しく測られてなかったのかもしれませんね」
「そ……そうなんですね……」
 ずっと、小さいサイズのブラをつけていたのかと思うと、衝撃だ。
 自分で計ったのも、会社に入る前くらい。
 かなりキツく感じても、無理矢理そういうものだと納得していたから。
 ――それに、サイズが上がったイコール、太ったと思いたくなかったし、まあまあの値段を頻繁に変えたくはなかったから、我慢していたというのもある。
 若干、ショックを受けていたが、次が本番。
 あたしは、店員に勧められるがまま試着をし、結局、ブラとショーツのセットを二つ購入したのだった。
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