Runaway Love
 どうにか、鳴り続ける心臓を押さえながら、あたしは目を閉じ、大きく息を吐いた。
 絶対に見限られると思って、覚悟してたのに――何で、みんな、あきらめてくれないの……。

 ――……何で……。

 ――”難しく考えないでください”。

 不意に思い出したのは、野口くんの言葉。
 ――……あたしの、ガチガチの頭じゃ、それすらも難しいのに。
 けれど、昨日ずっと、あたしに触れている間中、彼はそんなコトを言い続けていたのを思い出す。

 ――”茉奈さんは、そのままで良いんです”。
 ――”無理矢理、自分をダメだと納得させないでください”。

 まるで、あたしの中の棘を抜くように、そんな言葉が耳元で囁かれ、頭の中いっぱいに響き渡る。
 それだけで、涙が出てきた。

 ――”愛してます”。

 繰り返し、刷り込まれるように言われた言葉を思い出し、顔どころか身体中真っ赤になる。
 そして、それは――岡くんにも、早川にも言われた言葉。
 ――早川に至っては、プロポーズなんてしてくるし……。

 あたしに、そんな価値があるとは思えないのに。

 ヒザを抱え、顔をうずめると、首を軽く振った。
 

 でも、ちゃんと、自分と向き合うんだ。
 たとえ――……埋め込まれた棘に、血が出るまで傷つけられようとも。


 ――……もう、逃げるのは、やめだ。


 顔を上げ、真っ直ぐに宙を見つめる。

 結果、変わっても変わらなくても、向き合って出した答えなら――胸を張れる。
 自分を嫌いにならなくて済む。



 そう、考えられる事が、変わったんだと理解できたのは――もっと、後の事だ。
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