Runaway Love

70

 二週目の週末。
 先週は、早川と一緒に過ごしたが、今週いっぱい、アイツは出張。
 大阪近辺の営業を、他に出向してきたメンバーに預け、自分は中国、四国地方にまで足を延ばすと、意気込んで向かって行ったのだ。
 さすがに、ここからの移動距離を考えれば、出張扱いの方が良いだろう。
 関西方面への進出計画を、自分なりに温めていたようで、今ようやく実行に移しているようだ。
 スマホには、さっそく、向こうの名所の写真や、自撮り写真が送られてきていた。

 ――だから、何で、自撮り写真よ。

 突っ込みたくもなったが、ひとまず放っておく。
 あたしは、一言、頑張れ、とだけ返した。

 週末のルーティンは、こちらに来ても変える事はせず、大物の洗濯や、部屋の掃除。
 持っていた地図で探したリサイクルショップで、昨日帰りがけに掃除機を買ったのだ。
 そんなに古いものでもないので、出向を終えたら、また売れるだろう。
 すると、不意にスマホが鳴り響き、着信と気づく。
 あたしは、急いで手に取ると、固まってしまった。

 ――岡くんだ。

 何の用なのかわからない以上、出ない訳にもいかない。
 あたしは、そう思い、通話状態にする。

「――もしもし」

『あ、茉奈さん!今、大丈夫ですか⁉』

 妙に騒がしいBGMの中、いつも以上にテンションの高い声に、眉を寄せる。
「……ちょっと、周り、うるさいんだけど……」
『あ、すみません!今、こっち、着いたばかりで……駅の中なんです』
「……え?」
 あたしは、眉間にシワが刻み込まれるかと思う程に、更に眉を寄せた。
 ――言っている意味がわからない。
 そう思い、尋ねようとするが、先を越された。

『今、新大阪駅なんです!茉奈さん、迎えに来てもらえませんか?』

「――……は?」

 あたしは、完全にフリーズした。



「……ま……ったくっ……!!アンタってば、ホントにっ……!!!」

 喧騒の中、あたしは、駅の入り口付近、通り過ぎる若い女性達の視線を受けながら、スマホを見ていた岡くんを見つけ、開口一番怒鳴りつけてしまった。
 だが、彼は気にする風でもなく。
「会いたかったです、茉奈さん!」
「接触禁止だって言ったでしょうが!」
 勢いに任せて抱き着いてこようとしたので、一喝する。
 気持ち、シュン、と、なったが、すぐに気を取り直したのか、笑顔を向けた。
「お久しぶりです!元気そうで、安心しました」
「――……ていうか、状況がまったく見えないんだけど」
 あたしは、大きくため息をつく。
 何で、アンタは、今、ここにいるのよ。
 歩きながら岡くんは、その疑問に、にこやかに返す。
「会いに来たんですけど?」
「――……それだけ?」
 あたしは、目を丸くする。
 ――あたしに会うだけのために、大阪まで来たの、アンタは。
「だって、茉奈さん、言ったじゃないですか。会いたきゃ会える、って」
「い、言ったけど……」
 まさか、本当に会いに来るとは思わないではないか。
「――まあ、そう報告したら、教授に、レポート出せ、って言われましたけど」
「……ちょ……大学休んだの⁉」
「違いますよ。ただ、オレ、バイト無い時、教授がため込んでいる資料の整理手伝ってるんで」
 あたしは、ついに足が止まってしまった。
 そして、視線を下げる。
「茉奈さん?」
「……バカじゃないの……ホントに……」
 ポツリと、そうこぼす。
 岡くんは、同じように足を止めると、あたしの耳元で囁いた。
「言ったじゃないですか」
 一呼吸置き、続ける。

「――それくらい、あなたを愛してるんです、って」

 あたしは、瞬間、真っ赤な顔で耳に手を当てると、彼をにらみ上げたのだった。
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