Runaway Love
「――……茉奈」

「……な、何よ」

 ドアは閉められ、あたしはギクリとする。
 真剣な表情の早川に、思わず後ずさった。
「――アイツには、プロポーズしたコト、言ったのか」
「い、言ってない……」
「……そうか。……なら、無駄に勘が働くのか」
 その言葉に、嫌な予感がよぎる。
「……あのコ、何か言ったの……?」
「――……いや、直接どうって訳じゃねぇけど……。……ただ、お前の事は、どうあったって譲る気は無ぇって、クギ刺されただけだ」
 あたしは、思わず硬直してしまう。
 ――心臓が、無意識に反応してしまうから。
「茉奈」
「な、何――」
 言い終える前に、キスをされる。
 すぐに離されると、至近距離で早川は言った。
「俺も同じだって言っといたからな」
「は、早川」
 そして、再び唇は重ねられる。
 朝にしては、濃厚過ぎるそれに、あたしの思考回路は停止しかける。
「――……んっ……」
 それは、岡くんの事を考えさせないためなのか。
「……は……あっ……」
「――茉奈」
 呼吸をしたのを確認すれば、すぐにふさがれ、あたしは、早川にしがみつく。
 酸欠状態になりそうだけど、その気持ち良さに、身体が反応し始めてしまう。
「――だ、だめ……」
「――もう少し」
 拒絶しきれず、早川の舌を受け入れる。
 唾液が飲み込めなくなり、首筋をつたうのがわかると、無性に恥ずかしくなってきた。
 ぼうっとしてきた頭の中で、かろうじて、朝だという理性を掘り起こす。
「……た、崇也……。――も……うっ……だめだってば……」
 唇が、ほんの少し離れた瞬間、両手で早川の身体を押し返そうとするが、力が入らずしがみつく形になる。
 すると、ゴクリ、と、早川の喉が鳴った。
「――バカ、煽るな」
「な、何、言って……」
 そんなつもりなど毛頭ない。あたしは、ただ――。
 だが、そう言いかけた瞬間、早川が首筋に吸い付き、身体中が反応してしまう。
「――あ……っ……んっ……」
 流れた唾液を舐め取られると、思わず声が上がってしまい、慌てて手で口をふさいだ。
「……いい加減マジで襲うからな」
「……うるさい!誰のせいよっ……!」
 すると、早川は首にあてていた唇を、今度は耳元に当てる。

「――俺だろうが」

「……っ……!!」

 完全に翻弄され、その場にへたり込んでしまう。
「何だ、また、腰が抜けたのか」
「……崇也っ……!」
 楽しそうに言う早川を、あたしは、真っ赤になった顔で見上げた。
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