夏に咲く君に、きっと恋する【完】
「ーりさん、日和さん」
放課後、誰もいなくなった教室で涼しむ私の耳に透き通るような声が聞こえた。振り返ると、そこには見慣れた屈託のない笑顔があった。
「あ、えっと、小笠原先生」
「悪い、勝手に下の名前で呼んでしまった。俺のことは蒼先生でも蒼ちゃんでもお好きに、皆そう呼ぶし」
「私にはそんな勇気ないですよ」
別に親しい訳ではあるまいし、と言いかけ口をつぐむ。
「ところでどうされたんですか、先生」
「ああ、特に用事はないんだけどね、一人残っていたから、気がかりな事でもあるのかと思ってさ」
この人、面倒見は良さそうだが、内心、私にとっては少し面倒くさいなと思いつつ話を続ける。
「別に何か訳があるわけでもないんですけど空が綺麗だったので、なんとなく」
「今日は天気良いからな、けど天気悪い日なんてさ、雨見たって仕方ないよな、俺は雨が嫌いだし」
と半笑いでそう述べた。
''人間多種多様''という言葉と、それでも現代文の教師ですか、という言葉が頭の中を交差するが、外から流れてくる夏の香りを嗅ぎ冷静になる。
「…私は雨の日も好きですよ。弾かれた雨音とか、騒がしい程の蛙の声も、いつもと同じ空のはずなのにご機嫌斜めな所とか」
「はは、ご機嫌斜めって面白い表現だな、空に使うなんて。日和さんは大人びているよな。もちろん、良い意味で。他の学生とは一味違う」
自分は周りより大人びていると認識していたが、それが良い感情として私に向けられたのはこの時が初めてだった。同時に、つい熱く語ってしまった自分を恥ずかしく思い、頭に熱が上っていくのがわかった。
「なんか、すみません急に語りだしてしまって」
「こちらこそ、お邪魔して悪かったな。日が暮れないうちにね」
「はい、あ、えーと、さようなら」
その言葉を言い終える前に先生の後ろ姿は見えなくなっていた。
無意識に人との関わりを避けていた私だったが、思い返してみると、他愛のない会話から始まった先生との関わりには、不思議と私を落ち着かせるものがあったようにも感じ取れた。
放課後、誰もいなくなった教室で涼しむ私の耳に透き通るような声が聞こえた。振り返ると、そこには見慣れた屈託のない笑顔があった。
「あ、えっと、小笠原先生」
「悪い、勝手に下の名前で呼んでしまった。俺のことは蒼先生でも蒼ちゃんでもお好きに、皆そう呼ぶし」
「私にはそんな勇気ないですよ」
別に親しい訳ではあるまいし、と言いかけ口をつぐむ。
「ところでどうされたんですか、先生」
「ああ、特に用事はないんだけどね、一人残っていたから、気がかりな事でもあるのかと思ってさ」
この人、面倒見は良さそうだが、内心、私にとっては少し面倒くさいなと思いつつ話を続ける。
「別に何か訳があるわけでもないんですけど空が綺麗だったので、なんとなく」
「今日は天気良いからな、けど天気悪い日なんてさ、雨見たって仕方ないよな、俺は雨が嫌いだし」
と半笑いでそう述べた。
''人間多種多様''という言葉と、それでも現代文の教師ですか、という言葉が頭の中を交差するが、外から流れてくる夏の香りを嗅ぎ冷静になる。
「…私は雨の日も好きですよ。弾かれた雨音とか、騒がしい程の蛙の声も、いつもと同じ空のはずなのにご機嫌斜めな所とか」
「はは、ご機嫌斜めって面白い表現だな、空に使うなんて。日和さんは大人びているよな。もちろん、良い意味で。他の学生とは一味違う」
自分は周りより大人びていると認識していたが、それが良い感情として私に向けられたのはこの時が初めてだった。同時に、つい熱く語ってしまった自分を恥ずかしく思い、頭に熱が上っていくのがわかった。
「なんか、すみません急に語りだしてしまって」
「こちらこそ、お邪魔して悪かったな。日が暮れないうちにね」
「はい、あ、えーと、さようなら」
その言葉を言い終える前に先生の後ろ姿は見えなくなっていた。
無意識に人との関わりを避けていた私だったが、思い返してみると、他愛のない会話から始まった先生との関わりには、不思議と私を落ち着かせるものがあったようにも感じ取れた。