お願い、成仏してください! ~「死んでも君を愛する」と宣言した御曹司が幽霊になって憑きまとってきます~
 私はなにも言えなくなって彼を見た。
 彼は困ったように微笑した。

「俺が幽霊になったのは、きっと神の慈悲だ。君のそばにいられるように。一生そばにいて支えるから」
「そんな慈悲なんていらない」
 私は思わず言っていた。

「生きてそばにいてくれたほうが良かった。神の慈悲っていうなら、生き返らせてくれたほうがよかった」

 ああ。
 認めてしまった。

 認めたくなかった。
 彼がもういないなんて。

 いったんあふれたら、もう止まらなかった。涙がぼろぼろとこぼれて、テーブルにいくつも落ちた。

「ごめん」
 彼がまた謝る。

「謝るのは私のほう。ごめんね、あなたのほうがつらいよね。ごめん」

 わかっていたのに。

 彼は幽霊となって現れた。
 それはつまり、彼がもうこの世にいないということだ。

 なのに、私はその現実を拒否した。
 そうして、子供のことからも逃げようとした。

 だけど。

 彼に勢いよくだきつかれそうになったとき、とっさにおなかをかばった自分に気が付いていた。

 私、本当は……生みたい。

 だけど、一人でこの子を育てる自信なんてない。

 考えないようにしていた。

 だけど、もうそんな逃げは許されない。

 うう、と嗚咽とともに涙がこぼれた。

「紗智」
 心配そうな声に顔を上げると、彼がすっと手を伸ばしてきた。

 私の頭を撫でようとしたらしいその手は、すかっと空振りした。

「君を慰めることもできないなんて」
 暗い声が、部屋に落ちた。

 私はまた涙をこぼした。
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