お願い、成仏してください! ~「死んでも君を愛する」と宣言した御曹司が幽霊になって憑きまとってきます~
「あ……ごめん」
 とっさに彼は私をだきしめようとする。が、その手が私の体を通り抜けてしまう。

 彼は悔しそうに顔をゆがめ、うつむいた。

「……ごめん」
 言って、彼はその場から立ち去った。

 私はしゃがみこみ、声を殺して泣いた。





 会社を出て江上さんに連れられて歩きながら、ぼんやりとカズを思い出す。

 カズはいつも優しい。
 私が悪くても、喧嘩をすると彼から謝ってくれる。彼がそうして私を受け入れてくれるから、私も謝ることができた。

 私、最低だ。
 苦しいのは彼なのに、責めるようなことを言って。

 あれから、カズは現れない。

 実家に帰ったかな。
 私のこと、嫌になったかな。

 急に不安がおしよせてきた。
 彼がいなくなったら、本当に一人でこの子を育てなくちゃならない。
 そんなことできるのだろうか。

 怖くて、気が付くと手が震えていた。
 ずっと彼がいて、だから気がまぎれいてたのだと、ようやく気が付いた。

 彼は私のことが未練だと言っていた。
 ケンカしたことで、私のことがどうでもよくなったら。
 それなら、未練なんてこの世にはないということになる。

 私はぎゅっと唇をかんだ。

 もしかして、彼はもう……。
 そんなことないよね?

 慌てて顔を上げる。が、カズの姿は見えない。
 きょろきょろと周りを見渡す。
 が、彼の姿はどこにも見当たらない。

「どうかしましたか?」
 江上さんに聞かれた。

「いえ」
 私はそれだけしか答えられなかった。
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