友達が結構重たいやつだった

愛海が遠過ぎて‥‥

「あ、母さん?今から帰るとこなんだけど、家のことで相談したくて。うん、そう。まだ時期は決まってないけど、辞める意志は固まったみたい‥‥うーん、どうだろ?早くても4月になると思うよ?うん、うん、わかってるけど急かしたくないから。とりあえず先に家の準備をしておきたくて。自分で探してもいいんだけど、母さんの方が詳しいじゃんか?そう、だから色々手伝ってもらいたくて‥‥」

 これで家探しはほぼ終了だ。母さんのことだから放っておいても家具や家電の準備もしたがるだろう。

 愛海が長野に引っ越すと知った時はこの世の終わりかと思ったけど、今思えば付き合えたのも今回の同棲も遠距離だったことがきっかけになった。そうじゃなければ俺達はまだ友達のままで、最悪愛海が他のやつと付き合ってた可能性すらある。

 思ってたより簡単に付き合うことになったものの、どうしたら遠距離を解消できるかが問題だった。

 押しに弱い愛海はぐいぐいいけばわりと流されがちになるし、多少意に反することもわりと受け入れてしまう。だからこそあまり強引なことはしたくなかった。

 俺のせいで愛海が何かを諦めるのはあまり望ましくない。愛海自身が納得して決めないと遺恨が残るから。

 俺が長野で転職するのも考えたけど先々のことを考えて諦めた。確実に結婚が遠のく。それはそれで問題だ。

 愛海が俺との結婚を強く望むようになるのが一番自然だが、それだと何年先になるのか想像もできない。いっそのこと妊娠させてしまおうかと何度思ったことか‥‥この2年はまさに理性との戦いだった。

 大切にすると約束したにも関わらず、異動の話を聞くまで俺は愛海が仕事で悩んでいたことに全く気づいていなかった。同じ会社に勤めていればできることもあったかもしれないが、話を聞く限り俺にしてやれることは何もないように思えた。

 いや、待てよ?もしかしてこれ、ビッグチャンスじゃないか?

 話しぶりから察するに、愛海は転職することも検討しているようだった。だったら父さんの会社に転職してもらえばいい。優秀な上に真面目で努力家な愛海なら間違いなく成果を出せるはずだし、会社にとっては大きなプラスになるだろう。

 これできっと全てがうまくいく‥‥そう思ったのに何故か愛海の顔には困惑の表情が浮かんだままで、話が進めば進む程、それは濃くなる一方だった。

 愛海の心に何かが引っ掛かっている。取ってあげられたらいいんだけど、それが何かが俺にはわからなかった。
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