かりそめ婚のはずなのに、旦那様が甘すぎて困ります ~せっかちな社長は、最短ルートで最愛を囲う~
「この部屋を使ってくれ」
 寝具を運びながら、拓斗は部屋に案内してくれた。
 リビングを挟んで、彼の寝室とは反対側にある部屋だった。
 壁の一面は作りつけの本棚が占めていて、難しそうな本がいっぱい入っていた。
「クローゼットはからっぽだ。自由に使ってくれ。ここの本は保管用だから、部屋に入ることはない」
「ありがとうございます。でも、必要になったら、私は構いませんので、どうぞご自由に出入りしてくださいね。由井様のお部屋なんですから」
 気遣いに感謝して望晴が言うと、拓斗が顔をしかめた。
「その由井様っていうのはどうにかならないか?」
「すみません。それでは、由井さんとお呼びしても?」
「あぁ、そうしてくれ」
 拓斗はうなずいてから、付け加える。
「家のものは適当になんでも使っていい。冷蔵庫の中のものもだ。前の家政婦の残していった食材もある。そういえば、食費を渡しておこう」
 そう言った拓斗は懐から財布を出し、お札を抜きとった。
 それは明らかに十万円ぐらいありそうな束で、彼はこともなげに望晴に渡そうとする。
「現金をあまり持ち歩かないから、今はこれだけしかないが」
「い、いいえ! 十分です!」
 拓斗に札束を押しつけられた望晴は挙動不審になってしまった。
 
 望晴は拓斗と打ち合わせをして、食事の時間やこれからの生活について決めた。
 掃除をする気満々でいたが、週一でハウスクリーニングが入るから、簡単に片づけをすればいいらしい。
(さすがセレブ!)
 生活レベルの違いに驚くことばかりだ。
 とりあえず、その日は風呂を用意して、拓斗に先に入ってもらう。
「お先」
 リビングでテレビを見ていた望晴に、パジャマ姿の拓斗が声をかけてくれた。
 いつもはセンターで分けている前髪が下りていて、その間から見える切れ長の目がセクシーだ。くつろいだ姿を見ると、急に親密度が増したようで、ドキドキした。
 速くなった鼓動を抑えて、望晴は立ち上がる。
「じゃあ、私もお風呂をいただきますね」
「あぁ、おやすみ」
「おやすみなさい」
 拓斗は寝室に入っていった。
 パジャマを持って、望晴も浴室へ行く。
 浴室は広く、浴槽も脚が完全に伸ばせるほど広い。
「ふぅぅぅ……」
 温かい湯につかり、望晴は伸びをした。
 今日はいろんなことがありすぎて、くたくただった。
(まさか、由井さ……んの家でこうしてお風呂に入ることになるとは思わなかったなぁ)
 火災に遭うなんて思ってもみなかった。
 路頭に迷うところだったのに、こんな至れり尽くせりの条件で住まわせてもらえるなんて、驚きだ。
 彼に感謝して、一日を終えた。
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