本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 黙って立ち尽くす彼女を、幹線道路を走る車のライトに照らす。その顔は涙で濡れていた。
 さすがに彼と一緒に働いているのだから、私が言ったことが正しいかどうかくらい判断できたのだろう。

「私は彼に恥ずかしくない自分でいたい。たとえ愛されなくても、彼のことをすきになった自分のことを嫌いになりたくないから」

 首席に失恋したとき、彼のことをすきだった自分のことまで嫌いになりかけた。それは自分の傲慢さに気がついたからだ。もう同じ(てつ)は踏んだりしない。

「なによ、えらそうに!」

 大きな声にハッと顔を上げた瞬間、菊池さんが大きく手を振り上げるのが見えた。反射的に両腕をクロスして頭をかばう。けれど待っても予測される衝撃は訪れない。
 そろそろと腕を下ろしたら、彼女は手を途中で止めたままボロボロと大粒の涙をこぼしていた。

「あなたにっ、なにがわかるのよ……ライバルを必死に追い払ってすこしでも彼に認めて欲しくて一生懸命仕事を覚えて……それなのに、ポッと出の幼なじみに奪われた私の気持ちが!」

 彼女のこぶしがトンと二の腕に当たる。それから一拍置いて反対側も。
 くり返し、交互にこぶしを当てられる。さほど痛くはないが、何度も叩かれるとそれなりにダメージがある。

「ちょ、ちょっと。ねえ、落ち着いて」

 じりじりと押されながらも彼女を止めようと両手を前に出す。それではらちが明かないので手首をつかんだ。

「先生だって言ったもの! あなたは幼なじみで、ずっと妹のように思っているって! だから事務所で結婚相手(あなた)のことを話さなかったんだわ!」
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