本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 グサリと言葉が胸に刺さった。唯一補強しきれていない心の割れ目に、見事に刃先を突き刺されたようだ。
 痛みに顔をしかめると同時に、手を振り払われた。反動でよろけ、足をついたら歩道のくぼみにヒールが引っ掛かる。あっ、と思うと同時に体が傾いた。

 転んじゃう!

 ぎゅっと目をつぶった次の瞬間、後ろから肩をグッと引かれ、背中がドンっと誰かに当たる。寸前で誰かが助けてくれたのだ。転倒しなかったことにほうっと息をついた。

「ありがとうござ――っ!」

 お礼を口にしながら振り向いた瞬間、吐いたばかりの息をのんだ。

「圭く……っ」

 ギロッと睨まれ、思わず声をのみ込む。

「あ、あの……」
「おまえの話は後でだ」

 ヒヤッと背筋が冷たくなった。これは稀に見るお怒りモードだ。 
 後ろから私の肩を抱いたまま、彼は視線を菊池さんの方へ向けた。つられて私も前を向くと、両目を大きく見開いた彼女がその場に凍りついたように立ち尽くしている。

「菊池さん」

 地を這うような声に彼女の肩がビクリと跳ねる。薄暗い中でも彼女が顔色を失くしていくのがわかった。

「きみが俺のことをどう思おうが構わない。感情は個人の自由だからな」
「先生……」

 菊池さんがホッとした顔になる。きつい叱責を受けると思っていたがそうでもなく、案外すんなり許されると思ったのだろう。

「だが、彼女を傷つけるようなことなら話は別だ。たとえどんなささいなことでも許さない」
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