本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 すれ違う人たちに『Congratulations!』と声をかけられながら、ホテル内を移動し、五十七階の『サンズスカイパーク』にたどり着く。
 デッキに出た瞬間、インフィニティプールが目に飛び込んできた。夕陽に照らされた水面が、キラキラとオレンジ色に光っている。

 ここで圭吾と再会したのね……。

 胸が熱くなり、導かれるように隣を振り仰いだら、彼はこちらを見ていた。柔らかくまぶたを細め、しっかりとうなずいてくれる。

 まぶたが熱く潤んでくるのを必死にこらえながら、ゆっくりと展望デッキへ向かって進んで行く。
 船首のように細くなった先に神父が立っている。
 講壇の前に並ぶと、あの日と同じ、宵闇に包まれていくシンガポールの街が一望できた。明かりが灯り始めたビル群に、濃紺のとばりの裾がかかっている。

 神父が読み上げた誓いの言葉に、万感の思いを込めて『誓います』と答えた。

 〝運命の赤い糸〟なんて最初からなかったのだと、投げやりになっていたあの日の自分に言ってやりたい。その相手とはこれから〝再会〟するのよ、と。

『誓いのキスを』

 その言葉に向かい合う。ベールを持ち上げられ見つめ合った。

 周りには私達の挙式を見守る人だかりができていて、痛いほどの視線を感じる。ふたりきりのひっそりとした挙式をイメージしていたため、こんなに多くの人に見守られながらキスをするなんて思わなかった。圭吾のことだから、きっと周りの目なんて気にせずここぞとばかりにいつものようなキスをするに違いない。

 ドキドキとうるさい心音を聞きながらまぶたを下ろすと、唇に温もりが触れた。――と思ったら、すぐに離れた。あれ? とまぶたをしばたたかせる。その瞬間、ふわりと体が宙に浮いた。
< 153 / 154 >

この作品をシェア

pagetop