本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
「いや、でも」
「ソファーに並んでテレビを見ながら飲むなんて、仲の良い〝兄妹〟なら普通にやることでしょ?」
「そう……だよな」

 なんとも煮え切らない態度のくせに同意されて、胸に針を刺されたような痛みが走る。

 なんだろうこの痛みは。
 彼以外の人に恋もしたし、付き合った経験もある。こうして傷心旅行をするほど手痛い失恋だってした。初恋なんてもうとっくの昔に卒業したはずだ。

「私、お皿とグラス出してくる。適当に座っててね、お・にい・ちゃん」

 最後のところを強調してから、くるりと背を向けた。

 もしかして失恋のせいで過敏になっているのだろうか。だから彼に妹扱いされるたび、女性としての魅力に欠けることを実感してもやもやするのかもしれない。だとしたら、彼に腹を立てるのは完全なる八つ当たりだ。

 我ながらなんて子どもっぽいのだろう。つい先日も、勝手な思い込みで他人を傷つけるような発言をしてしまったばかりなのに。
 成長しなければ。

 はあ、とため息をつきながら、ミニバーコーナーの前に立つ。
 グラスを取ろうと吊戸棚に手を伸ばすが、思ったより高いところにあった。
 うん、と背伸びをしたら横からぬっと太い腕が伸びてきた。反射的に振り返る。男らしい喉仏が目に飛び込んできた。

 ハッと息をのんだせいで、ほんのりと甘く爽やかなフレグランスが一気に肺に押し寄せてくる。
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