本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
「香ちゃんもお酒を飲めるようになったんだな」

 しみじみとした口調で言われ、むうっと膨れる。

「当たり前でしょ。私、もう二十八なのよ」

 いくらなんでもアラサーになってまで未成年扱いは勘弁してほしい。

「結婚はまだなのか?」
「……結婚どころか付き合ってる相手もいないわ」

 どうせ真面目だけが取り柄のかわいくない女ですよ。

「それはもったいないな。こんなにかわいいのに」
「かわっ!」

 見る見る顔が熱くなっていく。うっかり喜びかけたが、簡単にそんなことが言えるのは、彼が私のことを身内扱いしているからだ。姉が私のことを『かわいい』というのと同じ感覚だろう。

「お、お世辞を言ってくれなくてもいいの。実際にモテないし、失恋して旅行に出ちゃうような痛いアラサーですから」
「傷心旅行だったのか……。いったいどんなヤツなんだ、香ちゃんを振るなんて」

 失恋相手のことを聞かれるなんて思いも寄らず口ごもる。

「言いたくないなら言わなくてもいいけど」
「別にそういうわけじゃないわ」

 多分私は失恋のことを誰かに聞いてほしかったのだ。できたらそれは相手のことを知らない人の方がいい。

「職場の人よ」
「ということは外務省の」
「うん、とても有能な外交官なの。異例のスピードで首席事務官になったくらい」

 今は直接の上司ではないが、在米国大使館でも一緒に働いていたことを話す。
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