本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 見当違いな思い込みだと一蹴してもいいくらいだが、なぜかできなかった。彼女の姿が少し前の自分と重なったのだ。

「どうしてそう思うの?」
「朝比奈先生はご実家の法律事務所の後を継ぐ予定で、そろそろ戻られることになったから政略結婚なのかもって」

 前半部分はあながち間違いではない。圭君は父親が営む法律事務所を継ぐのは本当で、今はお父様のご友人が経営している大手法律事務所で修業を積んでいる最中だ。

「相手がお嬢様って言うのはどこから……」
「あんなお弁当を見たらそうとしか思えません。冷凍の唐揚げの上に焦げた卵焼きまで……」
「ぅっ」

 口から小さくうめき声が漏れる。すみませんね、あんな卵焼きしか作れなくて。

 きっと本物の良家のお嬢様なら、きちんと料理教室に通うか講師を自宅に招くかして花嫁修業をしているはずだ。私が完璧でないのは、料理を真面目にやって来なかった自分のせいで、決して両親のせいではない。

 もともと自分から妻だと宣言するつもりはなかったが、ますます言いづらくなった。ここで『私が朝比奈の妻です』と言い出せるほど私の神経は太くない。
 色々と居たたまれない気持ちになり、ペットボトルとスマートフォンをバッグにしまって立ち上がる。

「申しわけありませんが、私から申し上げることはなにもございませんので」

 談話室を出ようと出口へ足を向ける。彼女の脇を通り抜けた瞬間「待って!」と腕をつかまれた。
< 80 / 154 >

この作品をシェア

pagetop