本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
「少しでいいんです! なにか少しだけでも知っていることを」

 ぎゅっと力を込められて驚く。このか細い腕のどこにこんなに力があるのだろう。

 そうは言っても女性同士だ。振りほどこうと思えばできるのに、必死な顔に胸が鈍く痛む。

 どうしよう。なんと言ったら諦めてくれる?
 すがりつくように私の腕を掴んでいる彼女と見つめ合っていた。

「なんの騒ぎだ」

 聞こえた声に、菊池さんは弾かれたように手を離した。カツカツと革靴が音を立てて近づいてくる。

「菊池さん、彼女になにをしていたんだ」

 静かながら厳しい声色に驚く。あまり怒ることのない人だと思っていた。
 問いただされた本人はさぞショックだろうと顔を向けたら、意外にも闘志をたぎらせた目をしている。

「朝比奈先生が全然教えてくださらないから、幼なじみさんに聞いていただけです」
「なにを」
「先生の奥様のことです。どんな方なのかって、事務所のみんなが気になっています」

 圭君が視線だけをこちらに寄こした。即座にちいさく頭を振って、なにも言っていないことを示す。

「本人が語らないプライベートを、他人から聞き出そうとするのはいかがなものかな。そもそも今この場にはまったく関係のないことだ。きみはなにをしにここに来ている? クライアントから事務所弁護士の個人情報を聞き出すためか?」

 非の打ちどころのない正論に、菊池さんは唇を噛んでうつむいた。
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