本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 彼は小さく息をつくと私の方に向き直る。

「ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
「あ、いえ……」

 あらたまった口調で頭を下げられ、妙に動揺する。色々と居たたまれなさすぎてこの場を早く終わらせたい。

 左手を持ち上げて腕時計を確認する。ちょうどいい時間だ。

「朝比奈弁護士、そろそろお時間です。舞台袖の方へお控えいただけますか」
「ああそうだった。それで菊池さんを探しに来たんだったな。――菊池さん」
「……はい」

 菊池さんはうつむいたまま圭君の後について行く。

 ほっとした気持ちになりながらふたりを見送っていると、談話コーナーを一歩出たところで彼がこちらを振り返った。目が合うと同時に彼がきびすを返した。長い足をすばやく動かし戻ってくる。
 え? と思っているうちに目の前までやって来た彼は、少し腰を折って私の頭の横に顔を持ってくる。

「プレゼン、とてもよかったよ。さすが香ちゃんだ」

 ささやくように言われ、一瞬で顔が熱くなった。

「俺も見習ってがんばらないとな」

 彼は大きな手を私の頭にポンっと置いてから、去って行った。

 談話コーナーにひとり残された私は、頬の熱が引くまでしばらくの間、その場でうつむいて動けなかった。

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