本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 彼は一瞬眉を下げて困ったような表情を浮かべたが、すぐさまいつもの爽やかな笑みに変える。

「今日はびっくりしたな。外務省主催のセミナーだとは知っていたけど、まさか香ちゃんが来るなんて。担当は別の方だったろう?」

 事前に配っていた資料の中には、先輩の名刺が入っていたはずだ。
 本来の担当者が突然の体調不良で早退したため、急遽自分が代役になったことを話す。

「そうか当日に……それは大変だったな」

 驚いた顔でそう言った彼は、先輩を心配しお見舞いの言葉をくれた。

「でも、とても当日に代役を引き受けたとは思えない、すばらしいプレゼンだったよ」
「見てたの⁉」
「ああ、会場の一番後ろからだけどな」
「全然気づかなかったわ」

 まさか彼が私と同じように発表を見ていたなんて。

「あの小さかった香ちゃんが、今はこんなに立派な外務官になったんだって……なんか色々感動した」
「別に立派ってほどじゃ……」

 手放しでほめられると急に恥ずかしくなる。それでも彼の目に今の自分が〝大人の女性〟として映っているのだとわかればうれしくないわけがない。

 胸の底から歓喜がじわじわと湧き上がり、料理に箸を伸ばすふりをして熱くなった顔を伏せた。
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