本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
「お礼なんて、別によかったのに」

 口に出してからハッとした。これじゃあまるで拗ねているみたいじゃない。子どもっぽい態度を取ってしまい慌てるあまり、うまくリカバリーできない。

 視線をさ迷わせ、気まずさを紛らわすように目についた器を手に取った。涼しげなグラスに入った枝豆のビシソワーズをスプーンでかき回しながら、せめてきちんとお礼くらい言わなければと思い直す。

「あの」
「今朝は悪かった」
「え?」
「香ちゃんの気持ちを無視して一方的に……」
「そのことなら私はもう」

 気にしてないから、と続けようとしたところで、照れたように口もとを手で覆った圭君がそっぽを向いた。

「ちょっと自分でもびっくりするくらい浮かれてしまった。仕事モードな香ちゃんのエプロン姿がかわいすぎて」
「圭君……」

 そんなふうに思ってくれていたのだと知って、なんだかうれしい。

「朝からひとりでガキみたいに(さか)ってすまなかった」
「さかっ……」

 うっかり手が滑ってスプーンがカチャンと音を立てる。慌てて周りを見回したが、幸い他のお客さんには気付かれていないみたいだ。座席の間隔が広くてよかった。

 とはいえ、ここにはたくさんの人がいる。誰かに聞かれたらどうするのだ。
 その意味を込めてじろりと睨んだが、彼はこちらを見ていない。

「本当に申し訳なかった。夫婦間と言えど同意のない性行為は――」
「わわわわわかったわ! もういいからっ」

 つい大きな声を出してしまったせいで、隣の席からチラリと視線を感じる。真っ赤になってうつむいた。
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