本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
「待って。シイタケだけでいいの」

 シイタケは海鮮手毬寿司の横にそえられている。昔と違い、今は少しくらい味が移っていても平気だ。シイタケだけを箸でつまんで持ち上げる。彼の方の皿に移動させようとしたそのとき。

「あっ!」

 手首をつかまれ軌道を変えられる。彼はそのまま箸先をパクリと口に入れた。

「え……」

 空になった箸先にまばたきを三回くり返してやっと、なにが起こったのか理解した。

 まさか圭君がこんな――いかにも頭に『馬』がついたカップルみたいなことをするなんて思わなかった。しかもここは、しっとりとした大人のムード漂うおしゃれなバーラウンジだ。

 顔を赤くした私とは逆に、彼はなにくわぬ顔で飲み込んでから、「ごちそう様」を告げ、爽やかな笑みで「ありがとう」と続けた。言い出したこちらの方がなんだか居たたまれなくなってくる。

 カクテルグラスをあおると、シャンパンの泡が舌ではじけ、フランボワーズの香りがふわりと口の中に広がっていく。完全に私の負けだ。

 グラスをテーブルに戻し、圭君に向き直った。彼にだけ聞こえるように体を寄せる。

「今朝のこと、私もごめんなさい」

 彼が目を見張った。なにか言おうと口を開くのがわかったが、それを遮るように急いで続きを言う。

「あんな言い方、冗談でも言っちゃダメだった。出勤に間に合わないと思って必死だっただけで、あの……それ自体は本気で嫌だったわけじゃなくて……」

 えっと、と言葉が詰まった。見る見る顔が赤くなって恥ずかしさのあまり顔を伏せる。
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