本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 うつむいたまま彼の反応を待つが、なにもない。気になって恐る恐る視線を持ち上げると、なぜか彼は顔を反対側に向けている。

 怒っているの?

 いや、彼はこんなことで今さら腹を立てるほど狭量な人ではない。

「圭君……?」

 彼は口もとに手を当て「こほん」と咳ばらいをひとつしてからこちらへ向き直った。

「とにかくもう勝手なことはしないと約束する」
「う、うん」

 耳の端が赤くなっているのは気のせいだろうか。

 それからは一気に場が和やかになった。好き嫌いの話から子どもの頃の思い出話になり、当然のように実家の話になる。

「母さん、引きこもっていた間に体力が落ちたからって、ジム通いを始めたらしいよ」
「すごいわ、美奈子ママ」

 私達の結婚のきっかけとなった彼の母は、近頃ずいぶん気力を取り戻しているそうだ。今度おじ様――お義父様とふたりで旅行に行きたいと言い出したらしい。どうやら私達を見ていて、自分たちの新婚時代を振り返ることも増えたらしい。
 強引に結婚を迫ったのだから、目的の達成に貢献できていると思うとほっとする。

 テーブルの向こうに視線をやれば、黒い鏡のようになった窓ガラスにふたりの男女が並んでいる。

 私達っていったいどう見えているのだろう。

 友人? 恋人? 夫婦?
 愛のないご都合婚夫婦だなんて、誰が気づくというのだろう。
< 95 / 154 >

この作品をシェア

pagetop