本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 入り口に向かってきびすを返したら、すかさず腕をつかまれた。

「それなら大丈夫。きちんと準備してある」

 彼が指さした場所には紙袋が置いてあった。開いてみると、中には洋服を含め着替え一式が入っている。驚くべき用意周到さ。これが経験値の違いというやつか。

「なんの心構えもなくてごめんね」

 気持ちふてくされ気味に言うと、圭君が「ふっ」と息を吐くように笑う。

「逆に俺は安心したよ」
「安心?」
「こういうのに慣れてないんだなって」

 腰を抱き寄せられ、耳もとで低くささやかれる。ドキッと心臓が跳ねた。

「そんなの、圭君が一番知ってるくせに」

 ツンと横を向いたら、頬に手を差し込まれる。ゆっくりと上向かされた。

「そうだな、俺が一番よく知っている。香子のことは俺が――」

 熱のこもる瞳が近づいてくる。つられてまぶたを下ろしかけたがギリギリで我に返る。

「ちょっ、ちょっと待って!」

 両手を突っ張って距離を取ると、彼が目をしばたたかせた。

「とりあえずお風呂に入らせて!」

 勢いのまま口に出してからハッと気がついた。これじゃまるでこの後の展開を期待しているみたいじゃないか。

「俺は気にしないけど」
「私は気にするのっ! いや、そうじゃなくて! それ以前に、仕事で汗もかいたし、ご飯食べた後だから歯も磨きたいわ!」

 正直、めちゃくちゃ気になる。初夜からこっち、お互い入浴を済ませて寝る準備が整って『さあ寝るぞ』となってからしか〝こと〟に及んでいない。

 真剣な顔で訴えたのが功を奏したのか、彼は「わかった」とうなずいた。

 それなのにーー。
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