契約結婚か   またの名を脅迫
ただいま
 東雲が一瞬間の出張へ出たことは、希実にとって救いだった。
 まだ、面と向かって彼に真実を問い詰める勇気はない。
 全部花蓮の言う通りだと認められたら、正気を保てない恐れがある。
 泣き喚いて東雲を責めてしまいそうな自分が怖かった。

 ――私は最低……彼は仕事なのに、元婚約者と会っているんじゃないかって少しだけ疑っている。

 東雲は出張中、一日一度は必ず連絡をくれる。
 しかもビデオ通話だ。
 普通なら、疚しいことがない誠実さに、ホッとするところだろう。
 けれど花蓮に悪意をぶつけられて以降は、そんな行為すら希実を騙すためのアリバイ工作に感じてしまった。
 ホテルの部屋に一人でいることや、仕事の延長である会食をアピールして、希実の目を眩ませようとしているのではないかと。
 本当は映像に入らない場所に、希実をせせら笑う小百合がいるのではないかと――

 ――馬鹿げている。東雲さんがそんな真似するわけがない。

 心では分かっている。
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