契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 さりとて今度は、『褒められている』とも思えなかった。
 背筋を冷たい汗が伝う。叶うなら、逃げ出したい。
 今すぐこの倉庫から逃亡を図りたい気持ちと、蛇に睨まれた蛙になった気分が希実の中で渦巻いた。
 結果、動けないまま東雲を見上げる。
 長身の彼の顔は高い位置にあった。
 女性の中でも小柄な部類の希実からすれば、顎を上げる体勢を取らざるを得ない。それもごく至近距離に立たれているなら、より顕著だった。
 東雲が軽く腰を折って、こちらを覗き込む形になる。
 二人の視線が絡み、覆い被さるのに似た男の体勢に希実が慄いた時。

「僕を助けてくれませんか? まさか嫌とは言いませんよね。佐藤さんは困っている人間を見捨てる薄情な人間ではないと思いますし、貴女がここで起こったことを目撃していたともし飯尾さんの耳に入ったら、大変ですものね?」
「え……」

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