契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 自分とは世界が違う人ではなく、地に足がついた親切な男性。そんなイメージが広がり、希実の警戒心は大部分が緩んだ。

「……私なんかが相手では、安斎さんに利益が少ないと思います。もっと条件のいい方に協力をお願いした方が……」
「佐藤さんがいいんです。これでも人を見る目はあります。それと――一つ言わせてください」

 己を卑下するうちに俯き気味になった希実は、東雲が言葉を区切ったのを機に視線を上げた。
 そこには、穏やかな笑みを浮かべた彼ではなく、真剣な面持ちの東雲がいる。
 強い眼差しに射抜かれて、逸らすこともできずに見つめ合った。

「今後は『私なんか』を禁止ワードにします。僕が貴女をいいと思い選んだ。それなのに佐藤さん自身がご自分を軽んじると、僕の鑑識眼が疑われている気分になります」
「そ、そんなつもりは」
「はい。佐藤さんに悪意はないと思いますが、人の心はままならないですから。――もし貴女がどうしてもご自分の価値を信じきれないなら、僕に選ばれた事実を信じてみませんか?」

 かなりの自信家発言に、希実は唖然とした。
 しかし彼は堂々として『何か問題でも?』と言わんばかり。
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