契約結婚か   またの名を脅迫
「とぼけないでよ。突然佐藤さんと東雲さんが婚約するはずがないでしょう! つり合いが取れていないにもほどがあるわ。大方、煩い周囲を牽制する作戦ってところ?」

 正解と拍手したい気分をぐっと堪え、希実は冷汗をかいた。
 反射的に動揺が顔に出そうになったが、希実はどうにか表情を取り繕う。

 ――牽制したい対象の筆頭は飯尾さんなのに、本人はまるで自覚がないのね……それに鼠や虫はもう気にならないのかな……それだけ私のことで怒っているのか。

 実はこういう事態になることも計算済みだ。東雲と事前に打ち合わせし、問答集や対策も用意していた。
 今こそ練習の成果を出す機会。
 希実は深く息を吸い込んで、己を鼓舞した。

「……でしたら、私でなく東雲さんに聞いてください」

 万が一、二人の婚約に関して嫌がらせをしてくる輩がいたら、全ては彼に問題解決を担ってもらう。
 希実は一切矢面に立たないことを話し合っていた。
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