前世恋人だった副社長が、甘すぎる
だけど川原さんはサングラスをかけたまま、前を見つめて告げる。
「そんなことないよ。
確かに僕は川原電機の跡継ぎだけど、穂花ちゃんのほうがスキル高いよ」
この御曹司は、私の食事のマナーが完璧だったことや、プロ並みのバイオリン技術をまだ僻んでいるのだろうか。
もちろん川原さんには言わないが、私は人生二度目だ。
一度目の人生では、お嬢様マナーをみっちり叩き込まれた。テーブルマナーや社交ダンス、バイオリン、ピアノ、語学まで……
当時は学校なんてなかったようなものだから、一日中家庭教師にレッスンを受けた。
そして今、二度目の人生だ。
「ありがとうございます。
庶民ですが、実家が厳しくて……」
私はまた、大嘘をつく。
「庶民なのにすごいよ。
庶民とか馬鹿にしてごめんね」
嫌味にも聞こえるが、川原さんはきっと心からそう思ってくれたのだろう。
「怜士が惚れたのも分かる」
胸がズキンとする。
「あ、でも、今は怜士の話題はいけないね」
川原さんはそう言って、これまた大きなホールの駐車場に車を停めた。