前世恋人だった副社長が、甘すぎる
壮大なアンコールを経て、コンサートは終わった。
二万円の価値のある、素晴らしいコンサートだった。
それでも私の心は、ぽっかりと穴が空いたままだ。
「素敵なコンサートでした。
川原さん、ありがとうございました」
なんて空元気を装いつつも、気持ちは落ち込んだままだった。
「僕も感動したよ。
やっぱり、ウィーン交響楽団はすごいね」
川原さんはそう言って、私の手を握った。
その瞬間私は、その手を振り払っていた。
「あ……」
すごく失礼なことをしたことに気付き、ごめんなさいと謝る。
川原さんは一瞬悲しそうな顔をして、
「僕のほうこそごめん」
笑顔になる。
こんな川原さんの様子を見て、私は察しつつあった。
川原さんが私を誘ったのは、怜士さんからの依頼ではない。そして、川原さんは怜士さんの今の状況について、教えてくれるわけではないと。