前世恋人だった副社長が、甘すぎる
副社長の頼んだラベンダーティーを飲むと、甘くてうっとりする香りに包まれる。それが酷く懐かしい。
「菊川さんなら喜んでくれると思った」
低く甘い声で副社長が言う。
私はその顔を見ることが出来なくて俯くが、副社長がどんな顔をしているのか容易に想像出来た。
こんな私の隣で、そっと自分のティーカップに手を伸ばす副社長。それを大切そうに両手で持ち、再び口を開いた。
「俺の大切な人も、この紅茶が好きだった。
手の届かない人だったのに、俺を気遣ってかわざと庶民的な飲み方で、この紅茶を嗜んでいた」
「……え?」
思わず見上げると、甘く優しい眼差しが降り注ぐ。
ああ、綺麗な瞳……。その瞳から目を逸せなくなる。
「す……好きだったんですね……」
私はこんな言葉しか言えず、副社長はまた目を細める。
そして愛しそうに私を見るのだ。
「好きだった……愛していた……」
その自分に言い聞かせるような言葉が、ずしんと胸に響く。
だけど、その言葉は私に向けられたものではないのかもしれない。
クリスチーヌとマルクの関係も、ただの私の長い夢なのかもしれない。