どうやら私、蓮くんに愛されているようです
恵那の癒し
「恵那ちゃん、おかえり」

遠い意識の中から聴こえる穏やかな声音が心地よい。

「ん……」

重たい瞼を持ち上げられず、目を瞑ったまま返事をした。

「飲み過ぎちゃった?」

「ん……」

「こんなところで寝てたら風邪ひくよ」

「ん……」

「ベッドに連れてってあげようか?」

「ん……」

「抱えるよ」

(れん)くん」

「ん?」

「気持ち悪い」

「え⁉︎ 吐きそう?」

「わかんない」

「ちょっと待って、ビニール袋持って来るから」

足音が遠ざかり、すぐにまた戻ってきた。

「ほら、これ持って。吐いていいよ」

体を起こされビニール袋を持たされる。
恵那の背中を摩る手が温かい。

「なんか吐けない。ゴロンしたい」

「うんうんわかった、ゴロンしようか」

背中を摩っていた温かい手は、恵那の身体をそっと横たえた。

「蓮くん」

「ん?」

「お風呂入りたい」

「ダメだよ、今入ったら倒れるから」

「意地悪」

「意地悪じゃないよ、ホントに危ないから」

「蓮くん」

「ん?」

「ここで寝ていい?」

「ベッドじゃなくていいの?」

「ん……着替えたい」

「わかった、後で着替えさせてあげるから」

恵那の身体にブランケットが掛けられ、蓮の手が太腿を優しくトントンする。

「蓮くん」

「なぁに?」

「蓮くんは優しいねぇ……」

恵那の意識が段々遠くなり、しばらくすると静かに寝息を立て始めた。

「俺が優しくするのは恵那ちゃんだからだよ」

蓮のその声は、静かなリビングルームに吸い込まれていった。
< 9 / 53 >

この作品をシェア

pagetop