心を捨てた冷徹伯爵の無自覚な初恋 〜聖女マリアにだけ態度が違いすぎる件〜

26 安心した先に……


 両手で顔を覆い悲鳴を上げているイザベラを、グレイは黙ったまま見ていた。
 ハッと我に返ったグレイは、地面に落ちていたナイフを拾いイザベラに向ける。


「……大人しくしてろ。そのくらいの傷ならば死ぬことはない」

「あああ……私の……私の顔が……。痛い……痛いわ……。すぐに治さないと……」


 イザベラはグレイの言葉が聞こえていないようで、ブツブツ独り言を言っている。
 足元がふらついている精神不安定な状態のまま、イザベラは別邸の玄関扉に手をかけその扉を開けた。


「おい!」

「早く治して……。傷が残る前に……」


 勢いよく屋敷内に入って行ったイザベラを、グレイはすぐに捕まえた。
 暴れるイザベラの力は予想以上に強く、グレイは何度も振り解かれながらも必死にイザベラの行く道を塞いだ。


「どいて!! 早くしなきゃ!! あの子なら治せるんだから!!」

「何言ってんだ! マリアは……」
< 200 / 765 >

この作品をシェア

pagetop