心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

「グレイ様、ベールをつけたところをご覧になりますか?」

「ベール?」


 エミリーからの提案に、グレイとレオが同時に答えた。
 エミリーは他のメイドが持っていた薄い生地を受け取ると、ふわっとマリアの頭に被せる。

 ドレスのスカートと同じように、前面から見える部分にだけ白い刺繍が施してあるベールは、マリアの身体の半分くらいを覆っている。
 刺繍されている端部分以外は透けているので、マリアの髪やドレスも隠されることなくうっすらと見える。


「こ、これは……まさしく聖女様!!」

「なんだそれは」


 大袈裟に感動しているレオに向かって、グレイが呆れた声を出す。

 しかし悔しいことにグレイも似たようなことを考えていた。
 伝説の聖女など見たこともないし興味もなかったが、もし自分が憧れていたとしたら、きっと今のマリアの姿を想像していたかもしれない。

 そう思えるほど、マリアは神秘的な美しさを持っていた。

 部屋にいるメイド達の中には、ベールをつけたマリアを見て涙を流している者までいたくらいだ。
 なぜか手を合わせてお祈りのポーズをとっている。


「……では早速行くか」

「はい」


 グレイが差し出した手を、マリアは一瞬迷った素振りを見せながらもぎゅっと握ってきた。
 自然と笑顔になったグレイを見てマリアの顔が赤くなったことに、エミリーだけが気づいていた。
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