心を捨てた冷徹伯爵の無自覚な初恋 〜聖女マリアにだけ態度が違いすぎる件〜

55 甘さの足りない言葉


 聖女セレモニー。
 数百年ぶりの聖女誕生をお祝いし、国民や他国の貴賓を招待して昼夜でパーティーを行う。

 昼は国民へのお披露目が目的で、王宮の中庭を解放し城の上部から国王、王妃、王子達と共に聖女が祝言を述べる。
 聖女は参加はしないが、街ではお祝いのパレードやフェスティバルが夜遅くまで行われる。

 夜は貴族と他国の貴賓しか参加できない王宮のパーティーで、再度聖女が祝言を述べることになっている。
 その後ダンスが始まる……という流れだけ、グレイは報告を受けていた。


「王宮側も、今回初めての聖女セレモニーでバタバタしているだろう。予定通りにはいかないかもしれないし、昼夜の長時間でかなり体力も消耗されると思う。……大丈夫か?」


 屋敷の中を手をつないで歩きながら、グレイはマリアに声をかけた。

 マリアは黄金色の瞳をキラキラ輝かせてニコッと微笑む。
 セレモニーに向けて練習していた『自然な笑顔』が上手にできている。


「うん。マリアは疲れてもすぐに回復するから大丈夫だよ」


 その答えを聞いて、グレイは確かに……と納得をした。
 マリアが聖女であることはわかっているが、つい治癒の力の存在を忘れてしまう時がある。
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