心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 マリアは王子の腕をそっと自分から離すと、また檻に近づいていく。
 逃げたいよりも近づきたいと思ったのは、イザベラの違和感に気づいたからである。

 イザベラは起きている。目を開けて、マリア達を見ている。

 それにも関わらず、驚いた様子も慌てた様子もない。
 罵ってもこないし、なんの反応もない。
 ただただジーーッとこちらを見ているだけなのだ。


「……?」


 様子のおかしいイザベラが気になり、マリアは檻の格子に触れる距離にまで近づいた。
 エドワード王子が「気をつけろよ!」と言ってマリアの背中を支えている。


「イザベラ……様?」


 マリアは初めてイザベラを呼んだ。
 名前を呼ばれたイザベラは、ニコッと見たこともない笑みを浮かべると、横になっていた身体を起こした。


「まぁ。なんて可愛いお姫様なのかしら」

「…………」

「それに、可愛らしい王子様まで。まるで絵本の世界みたいですわねぇ」


 ふふふっと笑いながら、優しい口調で穏やかに話すイザベラ。
 可愛らしい王子と言われたエドワード王子は、複雑そうに顔を歪めた。

 その様子を見て、「あらあら。どうしたの?」と優雅に問いかけている。
 こんなイザベラの姿を、マリアは見たことがなかった。



 ……本当にあの人なの?
 なんだか、全然違う人みたい……。


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