心を捨てた冷徹伯爵の無自覚な初恋 〜聖女マリアにだけ態度が違いすぎる件〜

81 無神経な男の失態


 マリアがおかしい。


 グレイは自分の前に座り、上品にパンを食べている美少女をチラリと見た。
 パクパクと美味しそうに頬張る姿は、いつも通りの彼女だ。
 しかし……

 パチッ


「!」


 グレイと目が合った瞬間、首がもげるのではないか? という速さで、マリアは顔をそらした。
 そのあまりにも不自然すぎる行動に、食堂にいる使用人達は皆同じことを考えている。


(マリア様、グレイ様を避けてる……?)
(完全に避けてるわ)
(グレイ様……一体マリア様に何を?)


 空気を読まないグレイですら、食堂内で感じる異様な目に気づいていた。
 居た堪れないような、もどかしい状態にグレイはどうしていいのか全くわからない。



 マリア……やはり、レオの言う通り俺のことを変態だと思って避けてるのか……?



 グレイは、数日前にレオに言われた言葉をまだ気にしていた。
 マリアの態度が一向に変わらないのだから、心配になるのも無理ないだろう。
 問題は、グレイはそれをマリアに聞くことができずにいることである。



 ここ数日は目も合わせないし、話しかけても顔を赤くして逃げる……。
 これは、完全に避けられていると思っていいだろう。



 マリアの行動を尋ねることができないのは、少なからずグレイ自身が傷付いているからなのだが……もちろん、グレイ本人は自分がショックを受けていることをわかっていなかった。


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