心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 ハリムは嘘をつくのが下手ね──はっきりとした理由はないが、マリアはそう感じた。
 腕を見せようとしないハリムに対抗してマリアが覗き込むと、隠された左腕に包帯が巻かれているのが目に入った。


「その怪我、どうしたの?」

「あーー……、今日の訓練でチョット……少し切っただけダヨ」


 骨折や出血量の多い大怪我でない限り、治癒の薬は使われずに普通に治療される。
 特に怪我の多い騎士の場合は。それをわかっていても、実際に怪我を見てしまうとマリアは放っておくことができなかった。
 遠慮される前にと、マリアはスッと無言のままハリムの腕に自分の手を近づけた。


「聖女様?」

「マリアッ」


 ハリムの問いかけやレオの制止にも答えず、マリアは手に集中する。
 黄金の瞳が輝き、小さな光がハリムの包帯の周りを覆っていく。
 以前は部屋全体を明るくしていた治癒の光も、当てたい部分だけ光らせることができるようになったため、周りには気づかれていないだろう。
 レオも一緒にハリムを囲うようにして、光が見えないようにしてくれている。



 お兄様に簡単にこの力は使うなって言われてるから、見つからないようにしなきゃ。



 他国からのお客様でもあるのに、怪我していると知っては放っておけない。
 マリアはコソコソと隠れるようにして、静かに治癒を終わらせた。

 隣に立つレオから送られてくる不満げな視線に気づかないフリをしながら顔を上げると、瞳をキラキラと輝かせたハリムと目が合う。

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