心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「すごい! コレが聖女の力!」
「う、うん。あの、ハリム、静かに……」
「ああ、ゴメン。つい感動しちゃって。すごいヨ! もう傷がナイ! ありがとう」
「ふふっ」
大きな図体で子どものようにはしゃいでいるハリムを見て、マリアはニコッと微笑む。
もう幾度となく言われた言葉ではあるが、マリアは今でも『ありがとう』と言われることが嬉しかった。
「今のことは、できるだけ内密にお願いします。できれば、もう少し包帯で隠しておいてもらえると……」
申し訳なさそうに会話に入ってきたレオに、ハリムは明るい笑顔で答える。
「もちろんデス! 私だけ傷が治ってたら、ミンナに嫉妬されてしまうカラね」
「あ、ありがとうございます」
ハリムはニコニコ話しながら、先ほど治した腕にまた包帯を巻いていった。
もし聖女に直接治してもらったという話が広まったら、確かに面倒なことになってしまうかもしれない。
マリアは機転のきいたレオに感謝した。
「じゃあ、私達はそろそろ行くわね。明日はパーティーだから、王宮内もバタバタしているみたいだし。ハリムも用が済んだなら部屋に戻ったほうがいいわよ」
「ウン、そうするよ。じゃあまた明日。聖女様」
手を振ってその場を離れると、しばらくしてハリムも戻っていくのが見えた。
ずっと複雑そうな顔をしているレオが、ボソッと小さな声で呟く。
「あの人、なんか変なんだよなぁ……」
「変って、何が?」
「騎士の格好をしているけど、騎士っぽくないっていうか」
「そう? 体格もいいし、私には騎士にしか見えなかったけど」