愛しているから、結婚はお断りします~エリート御曹司は薄幸令嬢への一途愛を諦めない~【試し読み】
「もう少しましな服はなかったのか?」
会って早々、私の頭からつま先まで見た叔父は、すぐに顔をゆがめてそう言った。
ここは都内にある老舗の高級ホテルだ。普段の私が足を踏み入れることはない。エントランスで待ち合わせした叔父は私の姿に不満を漏らした。
「これが〝ましな服〟です」
「それが? まるで喪服だな」
馬鹿にするような笑いを浮かべ、歩き出した叔父の半歩後ろを歩く。
喪服だなんて失礼だわ。確かに五年前に買ったものだけれど、丁寧に扱っていたから十分綺麗だし色は無難な黒だけど相手に失礼のないように精一杯身なりを整えたつもり。ただ……確かに地味ではあるけれど。
それでも普段よりもしっかりとお化粧をして、髪もきちんとセットした。相手に少しでもいい印象を与えられるように自分なりに努力はしたのだ。
エレベーターに乗り込みふたりきりなのをいいことに、叔父は話を続けた。
「まぁ、ぜいぜい相手に気に入られるように愛想を振り撒くんだな。そのくらいしかお前には能力がないんだから」
悔しいけれど叔父の言う通りだ。今自分にできるのはそのくらしかない。このお見合いが成功すれば母は施設に入ることができる。それが今の私の唯一の望みだ。
本当は結婚を望んでいないなんて、相手には失礼な話だ……あっ、そういえば大事なことを聞き忘れていた。
「あの、篤史さん。私のお相手って?」
あれからすぐに日程が決まった。しかし十日後という急な話で、母の入院でバタバタしていたため相手の確認すらしていなかった。
どうせ断ることができないのだから聞いても仕方がないという気持ちも少なからずあったけれど、会う前には確認しておきたい。
「まだ言ってなかったな。『赤城クリエイティブ』の社長、赤城家の御曹司だ。お前にとってはもったいない相手だろう? 俺に感謝するんだな」
私はその会社名に驚き、目を見開いた。
赤城クリエイティブって……私でも知っている大会社じゃない。たしか国内広告代理店でトップの規模だ。
「昔ならまだしも、どうしてそんな大会社の御曹司が私なんかとお見合いを?」
私が音羽フーズの〝お嬢さま〟だったのは昔の話だ。そして今の音羽フーズとの繋がりを赤城クリエイティブが欲しているとは考えづらい。
いったいどうして私なんかとのお見合いを希望したのか不思議でならない。